05年地連調査官集会アピール

            集会アピール

 私たち全司法労働組合近畿地連調査官集会に集まった仲間は,今国会に上程されている少年法等改正法案,少年法第20条第2項の原則検察官送致,被害者調査の実情と課題別にそれぞれ忌憚のない意見交換を行いました。
 そして,今国会に上程されている少年法等改正法案に関わっては,
 1 触法少年による事件への警察の調査権限の拡大,その中で児童相談所のあり方
 2 14歳未満の少年に対する保護処分の見直し,その中での児童自立支援施設のあり方
 3 保護観察中の者への措置,その中での保護観察のあり方
という大きくは3点について,議論をしました。
 1の警察の調査権限の拡大については,国民や被害者にとって,事件の解明が重大な関心事であり,適切に事件を解明するために警察の調査権限を明確化する意義は一概に否定はできないものの,警察の権限が拡大される中で,子どもの権利が守られるのだろうか,福祉的機能の低下につながるのではないだろうか,といった強い懸念が出されました。その結果,児童相談所が主導権を持ちつつ,非行態様の解明のために警察による取調べが必要と判断した場合に限って,その要請を受け,児童相談所の一時保護所で,児童福祉司の立会の下で取調べるのが望ましいとの結論に至りました。そのためには,児童相談所の人的,物的充実は不可欠です。
 2の14歳未満の少年に対する保護処分の見直しについては,被害者を死亡させるような重大事件を想定して,少年院送致ができるように改めようとの方向性であると思われます。しかし,現実に重大事件を起こす14歳未満の少年を見ると,これまで非行歴がなく,被虐待児であったり,不遇な環境で育つなど,幼い頃にさかのぼって育て直しが求められるようなケースが大多数であり,少年院よりも児童自立支援施設で時間をかけて処遇する方が望ましいものと考えられます。したがって,このような重大事件を起こした少年により充実した処遇が行えるように,児童自立支援施設の処遇や設備を整備すること,とりわけ強制的措置を執ることができる児童自立支援施設を増やすことが求められます。
 3の保護観察中の者への措置や保護観察のあり方については,まず現場の保護観察官も意見が様々で,必ずしも今回の改正を求めているわけではないことを確認しました。しかし,保護観察官が担当している事件数があまりにも多く,保護観察官の個人的な努力に頼っている実情があります。保護観察官の大幅な増員が急務であると言えます。その上で,少年の改善を促すプログラムの開発,改善の程度を評価するシステムを構築すると共に,保護観察の充実が求められます。家庭裁判所調査官が保護観察官と互いに交流を深めると共に切磋琢磨して,処遇の充実を図っていくことが大切だと確認しました。
 「改正」少年法により,いわゆる原則検察官送致の規定が設けられ,「改正」前に比べ,検察官送致率が格段に高まっています。少年に,他人の人命を尊重するという自覚を求めることは当然のことですが,一方で,保護処分の相当性,有効性が明らかと思われる事案であっても,私たち家庭裁判所調査官は検察官送致の「原則」に直面し,硬直的に処遇選択をしなければならないように考え,悩み,矛盾や疑問に直面しています。
 非行を抑止し,少年の健全育成を図るためには,何よりも少年の問題をきめ細かく理解し,少年に必要な処遇を柔軟に選べることが必要不可欠です。したがって,少なくとも,少年法第20条第2項の但書の存続を,強く求めるものです。
 我が国においては,少年事件に限らず成人事件においても,犯罪被害者への対策は遅れ,犯罪被害者らの苦しみなどに対するケアやサポートが十分になされてこなかったのが実情です。ようやく被害者対策の必要性が叫ばれ,制度の整備もなされつつありますが,未だ不十分です。
 平成13年の少年法「改正」により,家庭裁判所の手続に,意見陳述や結果通知等の制度が盛り込まれました。しかし,本来,被害者のケアやサポートは,専門機関の設置等国の政策として総合的に行われるべきものです。
 家庭裁判所は,これらの政策の一機関として,求められている役割を果たし,そのスキルの向上に努めなければなりません。ところが,少年事件の犯罪被害者が,心の痛みや怒りなどを訴える方法は,家庭裁判所に対する意見陳述等の手続きに限られているのが実情です。そのため,被害者の感情がケアされないまま厳罰化という形で家庭裁判所に向けられ,それが厳罰か保護かという硬直的な議論になって現れていると言えます。総合的な視点がないまま,少年法の一部だけを「改正」したことによる弊害と言っても過言ではありません。
 私たちは,少年の健全育成のために被害者の声を反映させることを否定しているのではありません。世論に流されて少年法を小手先で触るだけでは根本的な解決にならないこと,被害者のケア・サポートのための総合的な施策の充実が先決であることを訴えるものです。
 あわせて10年先,20年先の社会を担う健全な人間をはぐくむという長期的な視点に立ったとき,厳罰ではなく保護の充実こそが重要であることを,引き続き訴えていきます。被害者がこの視点を理解できるような社会を作るためにも,被害者のケア・サポート体制の充実が欠かせないと考えています。
 私たちは,本集会で取り上げた少年法等改正に関わる問題点を国民の皆さんに訴えていく必要性を確認しました。国民の皆さんには,私たちの考え方に理解いただき,真に国民のため,日本の未来を担う子ども達のためになる少年法等になるよう,共にとりくんでいただきたいと考え,呼びかけるものです。
      
2005年6月4日
                全司法労働組合近畿地連調査官集会参加者一同


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